| 重い腰上げた社保庁 徴収向上へ信頼回復を
厚生年金の加入を違法に逃れている中小零細の事業所に対し、社会保険庁は職権で強制的に加入させる方針に転換した。
厚生年金は、フルタイムの従業員を雇う法人の全事業所と、従業員5人以上の個人事業所に加入義務がある。
にもかかわらず、新たに事業を始めても厚生年金に加入の手続きを取らなかったり、「会社を休業した」と偽って違法に脱退したりする中小零細の事業所が目立つ。労使折半で負担する厚生年金保険料(現行は月給と賞与の14・288%)の事業主負担分を逃れることが目的だ。
社保庁は昨年12月から今年3月にかけて、指導しても加入しない北海道、茨城県、香川県の11事業所に立ち入り検査を行い、初めて強制的に厚生年金の加入手続きを取った。11日には、出先機関の担当者を集めた会議で、実施件数を大幅に増やすよう指示した。
厚生年金の加入逃れが広がると、保険料を納める人が減り、年金制度の基盤が揺らぐ。きちんと保険料を払っている事業所との不公平も生じる。
さらに、従業員は自営業者と同じ国民年金加入者とされ、現行月額1万3860円の保険料を全額自分で負担しなければならない。その加入期間に対応する老後の年金は、40年加入の満額でも月約6万6000円の基礎年金だけ。基礎年金のほかに月10万円程度の厚生年金を受け取れる標準的な厚生年金加入者と比べ、大きな差がつく。
こうした点を考えれば、強制加入は当然の措置であり、むしろ遅すぎたと言える。
改めて問われるのは、これまで社保庁が取ってきた後ろ向きな対応だ。
各地の社会保険事務所はこれまで、中小零細の事業所が出した虚偽の脱退届をしばしば黙認してきた。それどころか、社会保険事務所の方から「脱退の届けを出しては」と勧める例さえあったことが、読売新聞社の調べで明らかになっている。新規に設立された事業所に対しても、社会保険労務士に委託して巡回説明をする程度の、お座なりな対応で済ませていた。
経営の苦しい事業所を加入させておくと、保険料を滞納する場合が多い。滞納した事業所が倒産すれば、保険料は徴収不能となる。社会保険事務所が加入逃れを黙認してきたのは、「各事務所が徴収成績を競い合っており、滞納が増えると、その事務所の徴収成績が下がるから」(千葉県内の社会保険労務士)だと指摘されている。
厚生年金の加入事業所数(約163万事業所)は、加入の条件がほぼ共通する雇用保険より約2割も少ない。保険料負担の重い厚生年金の加入は逃れ、雇用保険だけに加入する事業所が多いからだ。
社保庁が今回、方針を転換して強制適用に踏み切ったのは、一連の不祥事で国民の強い批判を浴び、姿勢を正さざるをえなくなったためだ。
今後は、加入事業所を増やすとともに、保険料を着実に徴収することが課題になる。
全国の事業所が滞納中の厚生年金保険料は、約2600億円(2005年度末)、倒産などで徴収不能になった保険料は、過去20年の累計で約4200億円にのぼる。徴収できない保険料が増えれば、年金財政は打撃を受ける。
しかも、社保庁は6割台で低迷する自営業者などの国民年金保険料の納付率についても、8割に引き上げる目標を掲げている。組織や人員配置を見直さないと、厚生・国民両年金の徴収強化を両立させることは難しい。
現在、年金保険料は社保庁、雇用保険料などは都道府県労働局と、同じ厚生労働省の所管事業でありながら、別の組織が担当している。徴収を一元化し、効率を高める必要がある。社会保険庁と、税金を徴収する国税庁との統合も選択肢になる。
国民の年金不信が、国民年金だけでなく、厚生年金の空洞化が進む背景になっている点も見逃せない。「公的年金は当てにならない、という意識が広がり、従業員が事業主に厚生年金加入を強く求めない例が多い」(社会保険労務士の東海林正昭さん)からだ。公的年金の抜本改革を進め、国民の信頼を回復することが、厚生年金の空洞化を防ぐ上でも必要だ。
(読売新聞)
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